さて。
翁は、かぐや姫を大切に育ててきたつもりでいました。
高貴の公達より求婚されることが彼女にとっての何よりの幸せだと、だからそのような女性になれるよう、彼女をしつけてきたつもりでいました。

けれども、それは、彼女が望んでいる事ではなくて、実は彼が心底望んでいることだったのです。
彼は、自分の欲望を彼女に、ただ投影していただけだったのです。

ええ、何度も言いますが、だからこそ、この世界は地獄なのです。
この世界が混沌の極みだということが、これでわかります。
なぜ、この世界に平和がなく、混乱と争いしかないのか?
その答えが、ここにあるのです。

翁は、なるほど彼のレベルからは正しいのですが、それでも完全に狂っています。
彼は天の意図を知れるとのぼせ上がり、そしてその勘違いした意図、それはつまり自分の欲望を投影する意図ですが、その意図どおりに家族を巻き込んでいくわけです。

狂っている翁は、さらに高貴の公達からの求婚に舞い上がり、かぐや姫が本当に何を望んでいるのか?そのことを全く気にかけ(られ)ませんでした。

彼女が日々、一体何を求め、何を感じて生きているのか?
まったく、眼中になかったのです。

この物語を通して、彼は心から彼女と話そうとは一度もしていないのです。

「あれをしなさい。これをしなさい。決められていることだから、これをしなさい。言われた通りにしなさい」

–誰がそんなことを決めたのか?–

私は知らないけど。
そんなことはどうでもいい。
知りたくもないし、考えたくもない。
それは無駄な事で、会って話したこともないけど、偉いと言われている者達が考え出したルールなのだから、従え。

これだけなのです。これが本当の会話と言えるのでしょうか?
彼女が何を求めていて、どんな人生を歩んでいきたいのか?
そのことに耳を傾ける事は決してありませんでした。

単にそれだけのことすら、出来なかったのです。

しかし、今ですらこのようなことは何も変わっていないのです。
少なくともこの社会は、いまだ翁と同じレベルなのです。

実際、私もそうでした。
両親と心から話した事は一度もありませんでした。
驚きです!

彼らは、よい大学に行って、よい会社に勤め、より階級の高い家庭の女性と結婚し家庭を持つことこそ、何よりの幸せだと思っていたのです!!

このことに、私がどんなに驚いたか!?
小さい頃から、私は両親がこのように私に言う時、何かの冗談か、単なるたとえ話をしているのだとばかりと思っていたのです。

しかし、本当だったのです。
彼らは、マジだったのです。

それを完全に知った時、私がどれだけ絶望したことか!
おわかりになりますでしょうか?

ですので、竹取物語、このかぐや姫の物語で語られていることは、なんと今と変わらないのでしょう!!
何千年か経ち、文明は発達し、電車や車が現れ、飛行機さえも作られ、
インターネットを利用できるような現代になっても、根本的には何も進歩がないのです。

これを絶望と感じず、何を絶望と感じればいいのでしょう。

ですので、くどいようですが、この世界に何の期待も出来ません。
また、このような世界を変えようとすることもできません。

私たちは、この世界自体にはまったく救いがない事を完全に理解しなければいけないのです。

なぜこれほど繰り返すかと言えば、私たちのほとんどがこのことに無自覚だからです。
なるほど探求者やあらゆる神秘体験を通り抜けた人たちは、確かにこのようなことを概念として仕入れています。
けれども、概念としてだけであって、本当には気づいていません。

ここが問題です。
そうなってしまっている時、そのことに眠ってしまっている時には、どうやってもそのことに気づけないのです。

だからこそ、私たちは実はわかっているようでわかっていないんだ、ということに心を開かなければいけません。
このように心を開くことは、謙虚さであり素直さから来るものです。

そして、このような謙虚さや素直さを維持できている人は、本当に稀なのです。至高の道に入る人であってもです。だからいつまでも子供のような謙虚さや素直さを持っている人は、成長が素晴らしく早いわけです。

翁を見て下さい。
彼の傲慢さをよく見て下さい。
もし彼が傲慢に感じないのなら、それはあなたが彼と実はまだ同じレベルにいる、ということです。そして、このことに反感を感じるのなら、まさしく彼と同じレベルであることを示しています。

けれどもここで重要な点は、そのことを受け入れさえすれば、すばやく成長できる、ということです。逆に、いつまでもこのことにうじうじしていたり、根に持ったりするのであれば、やはりいつまで経っても、このレベルから上がる事が出来ない、ということなのです。

(つづく…)

【レベル】:ホワイトクラス~ゴールドクラス