これは、ドン・ファンにしてみれば、やっかい極まりないことだったでしょう。

カスタネダは、個人として完全に眠っているがゆえに、その眠りから覚ますために
ドン・ファンは、ありとあらゆる方法を使って起こそうとするのですが、
カスタネダの信念はそうとう根深かったのです。

普通であれば、こういう人間は私たちが気にもとめなくていいものです。
眠っているのであれば、それを無理に起こす必要もないのですから、
そっとしておいてあげるのが一番です。

けれども、ドン・ファンにはそうもいきませんでした。
精霊からの指示があり、彼は、それを何としてでもやり遂げなければいけなかったのです。

はっきり言えば、まったく割に合わない仕事です。

カスタネダを呪術師にすること、つまりもう誰の助けもいらない地点に導くことで、彼にとってのいわゆるメリットは何一つありません。
誰もそんなことをしていることは知らないし、無関心です。
どうでもいいことです。
もしある人間が、その話を聞いたのなら、

「ばかじゃね?」
「アホくさい」
「くだらないことしてるよ」

確実に、苦笑いしながら、このような反応をします。
なぜなら、それが ”人間” だからです。

当のカスタネダでさえ、助けてもらっているというよりむしろ、たびたび
疑ったり憎んだりしていて、道中、感謝などという態度はほとんど見せませんでした。

ああ、そうです。個人は、人間はいつもこれをやります。

しかし、誰にも理解されなくても、ドン・ファンはこの仕事をやりきらなければいけませんでした。
それがどんなにとてつもないことか!?

実際、彼はカスタネダをその状態までもっていったあと、ただ去って行ってしまったのです。
これが偉業でなくて、何なのでしょうか。

間違いなく、人生で最も崇高で、最も難しい仕事です。
そして、この世界のもっとも奇妙な所は、そのような仕事に誰も関心がない、という事実です。

私は、このことに本当に驚いています。

最も偉大な仕事(自由になること)は、最も価値がない、とみなされています。
ティッシュ配りや看板をもっているよりも価値がないとみなされています。
仕事とはみなされません。

いいでしょうか?
このことに誰も気が付きません。

誰も疑問に思えません。

なぜでしょうか?
当時の私には、疑問で疑問で仕方ありませんでした。

そうです。それは、誰かの利益にならないからです。
(本当は、とてつもない利益を偏りのない利益をもたらすのですが。)
世界の利益になるどころか、世界には大問題だからです。
それは、困るのです。

こういうわけで、誰もあなたの仕事が見えません。
けれども、誰かが言わなければなりません。
誰かが、あなたの道が何なのかを言わなければなりません。

ですので、私はこうして、あなたに話しているわけです。
あなたが、どれほどの存在なのかを。
実は、何をしているのかを。

さて。
誰もがカスタネダのプロセス、彼が体験したことに興味を持ちますが、
むしろ、ドンファンについて、彼の仕事の性質について本当の理解がなされなければ
いけません。

完全無欠のこの教師が何をしていたのか?
それをよく思い出すことが大切です。

ドン・ファンは、カスタネダに彼の信じているものが全てではないと徹底して気づかせなくてはいけませんでした。

まず、自分が信じているものを疑わせなければいけなかったのです。
そして、もっとそれ以上のものがあることを受け入れさせなければいけませんでした。

それが、ドン・ファンがやっていたことです。

この話は、眠っている個人をどうすれば起こせるか?
その難しさを語っているのです。
これほどすさまじい労力を注がなければ、個人は個人としてみられない、ということを、この本では指摘しているのです。

そして、それを導いていく者がどれほどの忍耐力を要求されるのか?
忍耐力、誠実さ、愛、勇気、信念…
この素朴で基本的な在り方を究極的なレベルで求められるわけです。

ドンファンが、途中、ビールでも飲みながら、愚痴っていたのでしょうか?
不平不満をばらまいて生きていたのでしょうか?

これを理解すれば、あなたがどれだけ目標から遠いかがわかると思います。

あなたは、毎日どれだけ、不平不満をばらまいて生きているのでしょうか?
毎日どれくらい、請い願う立場でいるのでしょうか?

簡単ですよね?

何もどこかのグルやマスターの所にいって、自分を試す必要はないのです。
答えは、明らかなのです。

わかる限り、ドン・ファンは、途方もない存在です。
完全無欠の教師です。
私がわかるのは、ドン・ファンは間違いなく、

「わかっていることをわかって」いました。
「知っていることを完全に知って」いました。

そして、そのような存在は、滅多にいない、ということです
まずいません。
このような存在に出逢えることは、途方もないほどラッキーです。

この文章を読んだ後、もう一度、あの本を読んでみて下さい。

きっと今まで気づけなかったことに、気づくと思います。
そして、新しい視野をあなたに与えてくれるでしょう。

(おわり…)

【レベル】:ホワイトクラス