やられてもやり返さない。
人から傷つけられても、仕返しをしない。
といった在り方を、人はどのように学んでいくのでしょうか?
人は、どのようにして、それを学んでいけばいいのでしょうか?
例えば、学校の授業で先生が、「やられてもやり返してはいけません!」
と言った所で、ほとんど効果がないのはわかっています。
生徒の誰もが先生の言う事を聞いているとは思えません。
それは恐らく、先生自身がやられたらやり返す人だから、という可能性があります。
先生は、概念として、「やられたらやり返してはいけない」と理解しているだけの可能性が大いにあります。
そう教えられたから、そうマニュアルに書いてあったから、上からそう指導されているから。
実際に教育現場で「やられてもやり返してはいけない。やり返さない方がいい」
ということが伝えられているかは知りませんが、
例えばこの想定としての例は、いかに概念がほとんど何の役にも立たないかを示しています。
では、人は実際にどうやって、このことを理解していけばいいのでしょうか?
私自身の経験から言えば、実際にそれを生きているお手本と出逢う事です。
経験上、それが一番効果があります。
☆教師は突然現れる
学生時代に、私はある方と出逢いました。その時に、私はまさしく、やられても傷ついても仕返しをしない、といった在り方を目の当たりにしたのです。
その方と出会ったのは、よくある短期日払いのアルバイト現場でした。
アルバイト内容は、女性向けの催事セールでの整理でした。
洋服のセールということで、婦人服の整理をしていたのです。
大規模なセールだったので、あちこちの大学からやってきているアルバイト学生がいっぱいいました。
指示によって、アルバイトはいくつかのグループに分けられました。
そんな中、同じグループで働くことになった二人と仲良くなったのです。
全員違う学校だったので、休憩中にいろいろな情報交換などをしました。
どういう専攻をしているか、どういう部活やサークルをしているか、どれくらい合コンに行っているか。などなど、普通の学生のありきたりの会話でした。
二人のうちの一人は、音大に通っていました。
私は、音大というものがどういうものかさっぱりわかりませんでした。
彼は、非常に大人しく、なぜか一緒にいて、落ち着きました。
なぜ落ち着くのかは、わかりませんでしたが、気が合うことだけはわかりました。
そして、午前中の仕事が終わり、お昼休憩に入った時、その事件は起こったのです。
☆衝撃的な在り方
そのアルバイト先には、非常に大きな食堂が完備されていました。アルバイトの数も大勢いたので、学食と変わらない雰囲気のようでした。
私たち三人も一緒にお昼を食べようと、食堂に出かけ、それぞれプレートにランチセットを載せて、席まで戻ってきました。
私ともう一人が先に席に戻って、しゃべっていたのですが、なかなか音大の彼が戻ってきません。
「どうしようか?先、食っちゃうか?」などとありきたりの会話をしていた所、
音大の彼が戻ってきました。
そして、音大の彼が席に着く直前、通りかかった男性が彼にぶつかったのです。
おかげで、彼のプレートに乗っていたジュースがこぼれ、びちゃびちゃに
なってしまいました。ご飯にもジュースがかかり、なんだかひどい有様になってしまいました。
二人とも、その現場を見ていたのですが、そのぶつかり方は、わざとに近かったのです。
ですので、私達二人は、彼に「あいつと知り合いなのか?なんかあいつにしたのか?」と訊ねました。
客観的に見て、非常に悪意のあるぶつかり方だったので、私達二人は、かなりむかついてしまったのです。
音大の彼が言うには、彼とは知り合いでもないし、彼に何かした覚えもない。
ということでした。
それを聞いて、私達二人は顔を見合わせ、彼にこう提案したのです。
「おい、あいつに文句言ってきてやろうか?こんなふざけた真似をしやがって、
お前にごめんも何も言わないで行っちゃったんだぞ?俺らが、仕返ししてきてやるよ」
音大の彼の答えは、「必要ないよ」でした。
それを聞いた私達二人は、またもや顔を見合わせ、キョトンとしてしまいました。
「お前なー、やられっぱなしで悔しくないのか?やり返してやろーぜ?」
と諭したのですが、彼は依然として結論を変えませんでした。
「こんなの大したことじゃないよ、別に大丈夫だから。それより、ご飯食べようよ」
私達二人は、まったく腑に落ちませんでした。
というより、ムカつきの矛先をどこに向けたらいいのか、よくわからなくなってしまい、二人で「うーーーーん」と唸るばかりでした。
どう捉えていいかわからないので、、私は「彼は音大だから、あまり騒ぎ立てないんだ」と非常に安易な結論を導き出してしまいました。
音大は、そういう傾向があるんだとしか、結論づけられなかったのです。
しかしながら、その後ランチを食べている最中、なぜか私はずっと、その事が気にかかっていました。
過去を紐解けば、同じような在り方をした方は、他にもいらっしゃったかもしれません。
けれども、彼は何かが違っていたのです。
(つづく…)